なんとなく、実現主義が採用されているように考えておられる方が多いところであるが、金子先生ははっきりと条文の中に根拠を示しておられたので、メモしておきます。出典:所得概念の研究 所得課税の基礎理論 上巻 金子宏著
P.73から
「ひるがえって、わが国の制度について見ると、前述のように、わが国の戦後の制度は、包括的所得概念を採用しているが、その場合に、実現が所得概念の要素とされているかどうかは、明文上明らかではない。いうまでもなく、日本国憲法には、アメリカの修正一六条に相当する規定はないから、所得概念をどのように構成するかは、立法政策の問題である。まず、所得税法は、いずれの所得についても、その金額を収入金額又は総収入金額として規定し(二三条ないし三五条)、いわば所得を「収入」(receipt)の形態においてとらえている。収入という言葉を、通常の用法に従って、経済価値の外からの流入と理解する限り、所得税法は、原則として、収入という形態において実現した利得のみを課税の対象とし、未実現の利得=保有資産の価値の増加益は課税の対象から除外している、と解さざるを得ない。事情は、法人税法についても、同じである。法人税法は、課税対象たる所得を、益金の額から損金の額を控除した金額として規定した上、益金を、資本等取引以外の取引に係る収益の額としてとらえている(二二条一・二項)。取引(transaction)の観念は、自己以外の者との関係において初めて成り立つものであるから、ここでも、未実現の利得は原則として課税の対象から除かれている、と解さざるを得ない。
中略
では、わが国の制度は、実現した利得のみが所得であると考えているのであろうか。所得税法や法人税法が、未実現の利得を課税の対象から除外しているのは、実際的便宜の考慮、伝統的会計慣行の影響、等によるものであって、実現した利得のみが所得であるというカテゴリカルな考え方によるものではない、と思われる。その証拠に、所得税法及び法人税法は、一定の場合に、未実現の利得を所得として課税の対象に加えている。」
この後は、①農業所得についての収穫基準、②低額譲渡の時価みなし、③無償譲渡の場合の時価相当額の益金算入、④みなし配当などを例としている。これらの個別規定に関しては、少し思うところがあるけれども、実現主義を条文上から導かれるとされているところは非常に参考になると思われる。