· 

新事業承継税制

4月1日に施行された租税特別措置法には、いわゆる「新事業承継税制」が規定されている。

条文すら、六法に印刷されておらず、自前で改正事項をいれかえ作成してつくった条文集は、A4サイズで80ページ。

もちろん、政令と規則も含まれているが、旧事業承継税制も大幅に改正されているから、このボリュームなのである。

申請用の様式は公開されているが、まだマニュアルすら公開されていない。税務の通達も発遣されていない。

中小企業庁や経済産業省のホームページの情報すら十分とは言い難い状況である。

 

しかし。

問い合わせがすでに数社からきている。

県内で旧事業承継税制を実施されている会社は7社と聞くが、記念すべき最初の一社は、当会計事務所で取り組んだものに違いない。

税務署も、経済産業局も、やったことのない新制度、当社も道なき道をたいへんな思いをしてやり遂げた。

今となっては懐かしい思い出である。

先進的な取り組みをなさった会長は、すでに鬼籍に入られた。

当時の担当者は、定年退職ですでに当社にはいない。

新世紀産業機構の担当者の方も退職されている。

私は、52歳にして、たった一人の当時を知る生き証人として?、若い現社長を支えているのであると自負している。

業務はもちろん、若い担当者に引き継がれており、当社は、永久に続くかもしれないこの制度をしっかりと支えていく覚悟である。

 

最近の税制は、相続時精算課税もそうだが、安定感のある税理士事務所に頼むのが適切である。

何となれば、制度設計として、無茶なくらいに長い年月にわたって責任を持たなければならないばかりか、制度自体がたいへん複雑で、条文も込み入っていること極まりないのである。

相続税だけではない。これだけグローバルかつ、IT化が進展した現在、国際的な経済情勢に詳しく、ITの知識が豊富で、会社法・民法などの頻繁な改正に確実にフォローできる必要がある。法人税法も所得税法も、日々!変化しているという事実を直視しなければならない。

 

会計事務所を選ぶときの、選定基準が変わってきたといわざるを得ない。

 

①税理士は、どんな人か。

新しいことに取り組む人か。請け売りではなく、自分たちで新分野を切り開く人か。役所や税務署と戦う理論武装ができる人か。また、クライアントのために労を厭わない誠実さがある人か。

②事務所の体制はどうか。

M&Aや大規模な事業承継案件、相続事件、再生事案などでは、数人のチームを編成しないと到底なしえないことがある。組織があり、数人で有機的な組織隊を編成できるパワーがあるか。

平均年齢が高すぎやしまいか。税理士の平均年齢は70歳近い。若い社員はちゃんといるのか。逆に、指導する社員もいるのか。

③コンプライアンスとITリテラシー

メールが嫌いとか、スマホが苦手だとか、そんなことをいわれると電子マネーになるこれからの時代に対応できない。好き嫌いではなく、時代の変化にちゃんとフォローできているか。

古い時代の人は、コンプライアンスということがわかっていない。あるいは、自分の利益を優先する。こんな人は、いつかどこかで「ブルータス、お前もか!」ということになりかねない。極めて重要な情報を委託するのだという認識をもって相手を選ぶべし。知的財産権などは、一瞬の甘えが致命的なミスとなる。個人情報や、マイナンバーは、風評被害を呼び、思った以上の手痛い傷を負うことがある。

④グローバル化に対応できるか。

弊社に問い合わせのある案件で一番割合が多いのは、関与税理士が海外に対応できないというもの。当社は、英語は当然として、中国語、台湾語、タイ語、ミャンマー語のトランスレータがいる。今まで納品した仕事には、ドイツ語とフランス語と英語の翻訳が必須条件であった業務もあった。日本には現時点で60万人近い外国人が住民として存在しており、海外進出している企業もどんどん増える一方である。税理士が海外の税務がわからないとか、文献が読めないとか、そんなことを言っていてよいのか。

⑤複雑になる税制に対応できているか。

平成10年くらいから、政府の変化が速い。法律が無茶苦茶に?改正されている。税法だけではない。会社法のような基幹的な法律がバッサリ改正され、今まさに明治以来の民法が改正されるという時期を迎えている。根本的な社会の変化――――ビットコインやIOTのような生活環境の変化、カーボンナノチューブ、ドローン、3Dプリンタ、スパコンの性能、私たちの社会を支える科学が、大変革を迎えている中で、税法が変わらないわけがない。税法は、すべてを説明しなければならない宿命を持っているのである。会計事務所がボーっとしててよいわけがないではないか。

⑥公益セクターの税制に対応できるか。

案外と増えているのが、公益セクターの業務。おもしろいくらいに仕事がくる。できる税理士が少ないらしい。この分野は、税金がかからない特殊な制度を利用している法人が多数あり、宗教法人や、社会福祉法人、社団財団、NPO、自治会、JVなどなど、おもしろい制度が山のようにあるのである。自分は関係ない?本当ですか?そのメリットを知らない人が多すぎる。節税のためだけではなく、合理的な経営のために、企業の協働のために、産学官の連携などで大きな資金を創り出すために、クラウドファンディングなどで適切な運営をするために、公益セクターの税制に詳しい税理士がとても役に立つのである。

 

言い出すときりがないので、このあたりにしておこう。

言わずもがなであるが、当会計事務所は、すべて準備ができている。

50年企業である古い会計事務所を引き継いだ私は、こんなことだけを考えて20年生きてきた。

当社は、これからようやく、花開く会計事務所になるのである。